
デプスインタビューとは、調査員(モデレーター)が対象者と1対1で60〜90分ほど対話し、行動の背景にある動機や価値観といった深層心理を掘り下げる定性調査の手法です。
アンケートでは「何を選んだか」は分かっても「なぜ選んだか」までは分かりません。その「なぜ」を当人も言語化できていないレベルまで掘り下げられるのが、デプスインタビュー最大の価値です。
本記事では、デプスインタビューの定義から、定量調査・グループインタビューとの違い、実施のやり方5ステップ、質問例、費用と期間の相場、よくある失敗までを、読んだらそのまま実施計画を立てられる粒度で解説します。
最後に、AIインタビューを組み合わせて「広く聞いてから、深く聞く」新しい進め方も紹介します。
デプスインタビュー(DepthInterview / IDI: In-Depth Interview)の「デプス」は「深さ」を意味します。
名前のとおり、1人の対象者にじっくり時間をかけ、表面的な回答の奥にある本音・動機・文脈を掘り下げることが目的です。
1対1で行うことには明確な理由があります。グループ形式では他の参加者の意見に引きずられる「同調」が起きやすく、お金・健康・家族関係といったセンシティブな話題は本音が出にくくなります。
1対1なら、その人自身の体験を、その人のペースで、時系列に沿って丁寧に聞き出せます。
• 形式: 1対1の対話(対面またはオンライン)
• 時間: 60〜90分が標準
• 人数: 1調査あたり6〜10人程度が一般的(1セグメントにつき2〜3人 × セグメント数)
• 得られるもの: 行動の理由・文脈・感情など、数値化しにくい深層情報
デプスインタビューを検討するときに必ず比較対象になるのが、アンケートに代表される定量調査と、複数人を集めるグループインタビュー(グルイン)です。違いを整理します。
グループインタビューは参加者同士のグループダイナミクス(集団力学)で話題が広がる一方、声の大きい人に流れが引っ張られたり、周囲の目を気にして本音が出なかったりします。
「個人の意思決定プロセスを時系列で深く追いたい」「センシティブな本音を聞きたい」なら、デプスインタビューを選ぶのが定石です。
また、デプスインタビューと定量調査は対立するものではなく補完関係にあります。
デプスで仮説を発見し、アンケートでその仮説の分布を検証する、という往復が王道の使い方です。
価格や機能の組み合わせなど「どの条件なら選ばれるか」を定量的に測りたい場合は、「コンジョイント分析のやり方」も合わせて検討してください。
• 購買・利用理由の深掘り: なぜ自社製品を選んだのか/なぜ競合に乗り換えたのか
• 解約・離反理由の調査: 退会アンケートの「価格が高い」の裏にある本当の理由を探る(詳しくは「解約理由調査のやり方」を参照)
• 新規事業の課題発見: ターゲットの生活文脈から未充足ニーズを見つける
• カスタマージャーニーの解像度向上: 認知から購入・継続までの心理変化を時系列で追う
向かないケース
• 仮説の優先順位付けや市場規模の推定など、量的な検証が目的の場合
(アンケートの守備範囲)
• 対象者の発言そのものより、実際の行動観察が必要な場合
(エスノグラフィー・ユーザビリティテストの守備範囲)
• アイデアの発想・コンセプト開発が目的の場合
(「新しい商品のアイデアを一緒に考える」といったワークショップ型の議論は、参加者同士でアイデアが膨らむグループインタビューや共創ワークショップの守備範囲)
n=6〜10の結果はあくまで仮説の発見であり、「10人中8人が言ったから市場の8割がそうだ」とは言えません。
この役割分担を理解しておくことが、後述の失敗を避ける第一歩です。
最初に「この調査で何を意思決定するのか」を一文で書き出し、あわせて現時点の調査仮説を言語化します。
例えば「解約率改善の打ち手を決めるために、解約者が離脱を決意した瞬間のトリガーを特定する」といった具合です。目的と仮説が曖昧なままインタビューに入ると、「あれも聞きたい」「これも聞きたい」と質問が膨らみ、話は盛り上がったのに使える発見がない、という結果になりがちです。
デプスインタビューの成否の7割は、この調査設計で決まります。後続のリクルーティングもガイド設計も、ここで決めた目的と仮説に紐づいて動くためです。
目安期間: 1〜2週間。
ステップ1の設計に沿って、条件に合う対象者を6〜10人集めます。スクリーニング調査(事前アンケート)で条件該当者を絞り込み、日程調整と謝礼の設定を行います。
条件を1つ妥協するだけで、全セッションの発言の解釈が濁るため、設計で決めた条件は崩さずに進めます。
目安期間: 1〜2週間。
聞くべきトピックと質問の流れを設計します(実務では「インタビューフロー」と呼ぶことも多く、指すものは同じです)。台本を一言一句固めるのではなく、「必ず聞く質問」と「回答に応じて掘り下げる方針」を決めた半構造化形式が実務では最も使いやすい形です。
ここでの判断軸も調査目的で、目的に照らして使いどころのない質問はそぎ落とさないと、ボリュームだけが膨らみます。
設計の詳細とテンプレートは「半構造化インタビューの設計ガイド」にまとめています。
目安期間: 3日〜1週間。
冒頭5〜10分は答えやすい質問で信頼関係(ラポール)を作り、残りの50〜55分で本題について「具体的なエピソード」を軸に深掘りします。
相槌と沈黙を恐れないこと、誘導しないことが鉄則です。
1日に実施するのは2〜3本までに抑えると、モデレーターの集中力が保てます。
目安期間: 1〜2週間(対象者の都合次第)。
録音を文字起こしし、発言を「事実」と「解釈」に分けて整理します。
対象者ごとの個票を作った上で、横串で共通パターンと相違点を抽出し、当初のリサーチクエスチョンに答える形でレポート化します。
目安期間: 1〜2週間。
全体では数週間〜1.5か月を見込むのが現実的です。
質問設計の最重要原則は、「なぜ?」を直接聞かず、行動の事実から遡ることです。「なぜこの商品を選んだのですか?」と聞かれた対象者は、その場でもっともらしい理由を作ってしまいます(後付け合理化)。代わりに、具体的な行動を時系列で聞き、理由はその文脈から浮かび上がらせます。
導入(ラポール形成)
1. 「最近ハマっていることを教えてください」
2. 「休日はどんな風に過ごされていますか?」
3. 「最近の一日の流れを、朝起きてから順に教えてください」
4. 「〇〇(商品カテゴリ)を最後に使ったのはいつ、どんな場面でしたか?」
本題(行動事実の確認)
5. 「その商品を初めて知ったときのことを、覚えている範囲で教えてください」
6. 「購入を決めた日、その前後で何がありましたか?」
7. 「比較した他の選択肢はありましたか? どこで比較しましたか?」
深掘り(行動に基づく意識の確認)
8. 「そのとき、一番引っかかった点は何でしたか?」
9. 「『便利』とおっしゃいましたが、具体的にどの場面でそう感じましたか?」
10. 「もしその機能がなかったら、どうしていたと思いますか?」
クロージング
11. 「今日お話しいただいた中で、一番強調したいことはどれですか?」
12. 「言い残したこと、聞かれると思っていたのに聞かれなかったことはありますか?」
質問例を含むガイド全体の組み立て方(必須質問と深掘り方針の分け方、時間配分、NG質問のパターン)は、「半構造化インタビューの設計ガイド」で詳しく解説しています。
外注する場合の費用感は、1本(対象者1人)あたり5〜15万円 × 人数分 + 分析・レポート費が目安です。内訳は主に次の4つで構成されます。
• リクルーティング費: 条件の厳しさに比例して高くなる
• 対象者への謝礼: 一般消費者で5千〜1万円、専門職・役職者は1万円以上が目安
• モデレーター費: 調査設計から実施・進行までの人件費(設計を含めて依頼するケースが多い)
• 分析・レポート費: 文字起こし、個票作成、報告書作成
n=6の標準的な調査で総額50〜100万円、期間は設計からレポートまで数週間〜1.5か月というのが標準的なレンジです(人数を増やせばその分積み上がります)。
条件別の詳細な相場表と、コストを圧縮する方法は「デプスインタビューの費用相場と期間」にまとめています。
• 対象者選定のミスマッチ: スクリーニングで直近の利用日・頻度・金額まで確認しても、選択式の回答だけでは「実際に語ってくれる人か」までは見抜けない。
→ ハズレをゼロにする前提を捨てて人数に余裕を持たせる。事前に自由記述やAIインタビューで語りの厚みを確認できると、当日の打率は大きく上がる
• 誘導質問: 「この機能、便利ですよね?」と聞いてしまう。
→ 評価を含まない開かれた質問に言い換える
• 「なぜ」の直撃: 後付けの理由しか得られない。
→ 行動の事実から遡る(前節参照)
• n=6〜10の過度な一般化: 少数の発見を市場全体の傾向と誤読する。
→ 定量調査での検証をセットで計画する
• 記録と分析の属人化: モデレーターの記憶と主観だけでレポートが書かれる。
→ 録音・文字起こしを必ず残し、実施直後にモデレーターと関係者でデブリーフィング(振り返り)を行う。そのうえで発言引用ベースで分析する
こうして並べると、失敗の多くは実施フェーズより前工程(誰に・何を聞くかの設計)に起因することが分かります。
特に「対象者選定」は、スクリーニングに自由記述設問を足しても、行動の詳細な実態や語りの豊かさまでは事前に読み切れないのが実情でした。
従来のデプスインタビューには、深さ・人数・コストのトレードオフがありました。深く聞けるのは6〜10人まで。その6〜10人を選ぶためのスクリーニングでは、自由記述設問を足したとしても、行動の詳細な実態や語りの豊かさまでは事前に分かりません。
このトレードオフを崩すのが、AIインタビューとの併用です。AIインタビューで数十〜数百人に一次深掘りを行い、筋の良い対象者と仮説を絞り込んでから、人のデプスインタビューで核心を突くという二段構えです。
弊社の コルクトーク は、AIが音声で対話しながら深掘りするAIインタビュープラットフォームです。実際の画面で流れを見てみます。
選択式のスクリーニング設問、対象条件の分岐、クォータ(割付)管理、そしてAIが深掘りする「トーク」ブロックまでを1つのフローとして設計します。
トークブロックには調査目的と最初の質問だけを設定すれば、深掘りレベル(軽め・普通・深め)に応じてAIが追い質問を自動生成します。
デプスインタビューのインタビューガイド(フロー)設計の考え方が、そのままAIに引き継がれるイメージです。

対象者は送られたURLをブラウザで開くだけで、日程調整なしに好きなタイミングで回答できます。
会場もオンライン会議の設定も不要なので、従来のリクルーティングで最大のボトルネックだった日程調整が消えます。

回答は自動で構造化され、深掘りの要約が全員分テーブルに並びます。
選択式の回答と自由回答の要約を横断して見られるので、「誰をデプスインタビューに呼ぶべきか」がこの画面だけで判断できます。

個別のセッションを開けば、AIと回答者の対話全文が確認できます。
下の例では、回答者が「電源席とWi-Fiが決め手」と答えたのに対し、AIが「そのポイントを重視するようになったきっかけ」を追い質問し、過去の失敗体験まで引き出しています。
この一次深掘りがあるからこそ、人が行う本番のデプスインタビューは検証済みの仮説から始められます。

「AIで広く、人で深く」。デプスインタビューを置き換えるのではなく、デプスインタビューの命中率を上げるのがAIインタビューの役割です。
Q. 何人にインタビューすれば十分ですか?
A. 6〜10人が目安です。1つのセグメントについては2〜3人で主要な発見の大半が出そろい、それ以降は同じ話の繰り返しが増えます。比較したいセグメントが2〜3あるケースが多いため、全体では6〜10人に落ち着きます。セグメントごとに最低2人を確保しておくと、その人だけの特殊な話なのかどうかを判断できます。
Q. 1回の所要時間はどれくらいですか?
A. 60〜90分が標準です。60分未満だとラポール形成と深掘りの時間が足りず、2時間を超えると対象者の集中力が落ちます。
Q. オンラインでも実施できますか?
A. できます。表情や手元の観察は対面に劣りますが、地方・海外の対象者に会えること、録画が容易なことなど利点も大きく、現在はオンライン実施が主流になりつつあります。
Q. グループインタビューとどちらを選ぶべきですか?
A. 個人の意思決定プロセスやセンシティブな本音を深く探るならデプスインタビュー、参加者同士の相互作用からアイデアへの多様な反応を引き出したいならグループインタビューです。迷った際は、「他者の意見に影響されずに個人の文脈を追いたいか(デプス)」か、「他者との共感から生まれる意見の広がりを見たいか(グループ)」で判断するのがおすすめです。
Q. AIインタビューはデプスインタビューの代わりになりますか?
A. 完全な代替にはなりません。熟練モデレーターの臨機応変な深掘りには、現時点のAIはまだ及ばない領域があります。一方で「広く・速く・安く一次深掘りする」ことはAIの得意分野です。AIで対象者と仮説を絞り、人のデプスで核心を突く併用が現実解だと考えています。
デプスインタビューは、1対1・60〜90分の対話で「なぜ」を掘り下げる定性調査の基本手法です。成否の7割は前工程——特に調査設計(目的と仮説の言語化)——で決まります。
• グルインとの使い分けは「他者の意見に影響されずに個人の文脈を追いたいか(デプス)/他者との共感から意見の広がりを見たいか(グループ)」が判断基準
• 質問は「なぜ」を直撃せず、行動の事実から遡る
• 費用は1本5〜15万円×人数+分析費、n=6で総額50〜100万円、期間は全体で数週間〜1.5か月が相場
• AIインタビューで広く一次深掘りしてから人のデプスで核心を突くと、対象者選定と仮説の精度が上がる
まずは直近の重要テーマで、n=6の小さなデプスインタビューから始めてみてください。対象者の目利きから始めたい場合は、弊社 がスクリーニングと一次深掘りをまとめて引き受けます。
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