事例インタビュー

「翌朝には声が届く」── エンタメ×AIリサーチ最前線。サイバーエージェントが実践する、スピードと深さを両立したインサイト収集

ABEMAをはじめとするメディア&IP事業や広告事業、ゲーム事業を展開する株式会社サイバーエージェント。

同社宣伝本部のストラテジックプランニング局は、少数のチームで定量・定性を組み合わせた膨大な調査を担い、コンテンツの方向性やマーケティングなどの企画戦略方針の決定に直結するインサイトを提供し続けています。

そのチームが、コルクのAIインタビューと出会ったのは2025年のこと。「前日設計で翌朝にはデータが集まる」という体験が、リサーチの在り方を大きく変えました。導入の背景から現在の活用実態、そして描く未来像まで、弊社CEOの南から篠田 俊英氏・藤井 春奈氏のお二人に伺いました。

株式会社サイバーエージェント

株式会社サイバーエージェント

コルク
コルクインタビュー
AIインタビュー
目的・課題
  • リクルーティングや日程調整、文字起こしなど、リサーチ業務全般にかかる膨大な作業工数
  • 専門的な経験がないことによる、定性調査の実施ハードルとスキルへの不安
  • 直前のキャンセルやスクリーニング精度不足による、インサイト収集の取り損ね
効果
  • 「翌朝にはデータ収集完了」の圧倒的なスピードにより、複数案件の並行稼働と迅速な意思決定を実現
  • 事前設定したガイドに基づくAIの自動インタビューにより、一定水準の調査品質を安定的に担保
  • AIならではのフラットな対話と映像から伝わる対象者の人物像により、リアルな本音と「ユーザーへの憑依感」を獲得

■ 視聴者の声をマーケティング戦略に変換。 —サイバーエージェントのインサイトチーム

【インタビュイー プロフィール】
篠田 俊英氏: 宣伝本部 ストラテジックプランニング局 局長
藤井 春奈氏: 宣伝本部 ストラテジックプランニング局

─ まずは、皆さまの部署のご紹介と、普段の業務内容について教えてください。

篠田氏:現在は宣伝本部に所属しており、サイバーエージェントのメディア事業のマーケティング全般を担当しています。注力しているのがABEMAと、アニメ・IPという領域です。その中で我々はストラテジックプランニング局として、定量調査・定性調査を中心に担当しています。宣伝本部全体では100名規模の組織ですが、その中で我々のチームは少数です。

私自身は宣伝本部に所属して約6年になります。中途入社で、最初はメディアの営業から始まり、メディアのプロデューサーなどを経験して今に至ります。

藤井氏:私も同じくストラテジックプランニング局に所属しており、チームの中でも特にアニメ・IP周りに特化してリサーチを担当しています。定量から定性まで一気通貫で設計・実施・分析を行っています。

経歴としては、2011年にサイバーエージェントに新卒で入社し、最初はAI事業本部でアドテクノロジーのセールスとプロダクト開発を担当していました。その後、篠田とほぼ同じタイミングで約6〜7年前に宣伝本部に異動し、現在の業務にシフトしていきました。

─ チームのミッションや、カバーされている領域についてももう少し教えてください。

篠田氏:ABEMAを中心とした自社コンテンツに対するマーケティング施策の方向性を決める「Who/What/How」の部分を考えるために、ユーザー調査を中心に担っています。どちらかというとクライアントよりもユーザー寄りの調査が主で、コンセプトの検証から番組の方向性決定まで、最終的な意思決定に直結するデータを提供することがチームの役割です。

■ 「月10人前後が限界」 —スピードと工数が生んだ定性調査のジレンマ

宣伝本部 ストラテジックプランニング局:藤井 春奈 氏

─ 今回、コルクのAIインタビューにご興味を持たれた背景を教えてください。

篠田氏:きっかけはESOMARのカンファレンスでQuest Researchの発表を拝見したことです。数年間にわたって、調査会社との共同実施からセルフリサーチまで一通りやってみた中で、それぞれの良し悪しも見えてきていました。ちょうどAI活用の話が盛り上がっていたタイミングで「新しい仕組みを探している」最中に出会いました。

AIを活用したプロダクト開発にも興味がありましたし、従来の調査手法は20年以上大きく変わっていない部分もあって、そこに余白を感じていたんです。特に感じていたのが「定量と定性の中間領域をもっと追求できるはずだ」という点です。

南(Quest Research):これまではどのように調査を運用されていたのでしょうか?また、その際にどのような課題を感じられていたのでしょうか?

藤井氏:これまでは少人数で年間100本超の定量調査を回しながら、定性調査は月10人前後できればいいほうという状況でした。定性インタビューをしっかりとした研修を受けて習得したわけでもないので、スキル面の課題もありましたし、何より人数的な制約で時間が取れないことがネックでした。

さらにリクルーティングから日程調整、実施、分析まですべて自前でこなしていたので、頑張って準備したのに直前でキャンセルになるケースもありました。調査目的の会員組織ではないためユーザーのみなさまに声をかけると、アンケートに慣れていない方も多くて、実施率が体感3〜5割という状況でしたね。

篠田氏:我々は最終的に調査結果を意思決定に繋げることを常に求められます。定量調査で傾向は見えても、「これをもう少し掘り下げたい」となったとき、10名のインタビューをセッティングすると他の定量調査に手が回らなくなる。限られたリソースで最適解を求めると、どうしてもデータとして不十分になってしまうことがあり、時間をかけずに量を確保できる方法を探していました。

また、うまくスクリーニングできずに、本当に話を聞きたかった方のインサイトが取れないまま終わるというケースもありました。その失敗でかけた工数が大きいと、ますます定性調査の優先度が下がってしまうという悪循環も生まれていました。

南:スピード・工数・リクルーティングの不確実性・スキルへの不安など、複数の課題が重なっていたのですね。

藤井氏:はい、その中でもスピードのところが一番大きかったです。ユーザーとのスケジュール調整から実施、文字起こし・レポート作成まで、すべての工程に時間がかかっていました。

■ 決め手は「翌朝にはデータが届く」という圧倒的なスピード感

弊社CEO:南

─ そうした課題感の中で、コルクを導入しようと思った決め手は何でしたか?

篠田氏:シンプルにスピードです。前日に設計して配信すれば翌朝にはデータが集まってくることが、非常に魅力的でした。「使おう」とチームに声をかけたのも、まずそこの期待からでした。

藤井氏:私は複数のインタビューが並走して同時進行できるという点に、直感的に魅力を感じました。これまでは1件1件手動でセッティングしていたので、それが一気に変わるというイメージが大きかったです。

■ 「定量で掴み、AIで広げ、ヒトで深める」リソースの限界を超えるハイブリッド運用

宣伝本部 ストラテジックプランニング局 局長:篠田 俊英 氏

─ 実際にどのような場面でAIインタビューを活用されていますか?

藤井氏:一番多いのはABEMAのエンタメ系コンテンツのインタビューです。具体的には恋愛リアリティショー、ドラマ、アニメ周りが多く、コンセプト調査、便益調査、新作アニメの期待値調査などに活用しています。

最終的な目的は番組の方向性を決めることで、制作チームと共有して方針を決めたり、コンセプトの優位性を検証して改善に繋げたりといった使い方が中心です。

篠田氏:私は定量調査の結果を踏まえて、気になったキーワードや項目をさらに深掘りするという流れが多いです。軽量の定量調査で方向性を掴んでから、AIインタビューでインサイトを深めるイメージです。設計時はClaude等のAIでベースを作ってからコルクに流し込むという使い方をしています。

南:定量調査と掛け合わせて活用いただいているのですね。ちなみに月にどのくらいの頻度でAIインタビューを実施されていますか?

藤井氏:多い月で20〜30人くらい実施しています。これまでの定性調査をAIインタビューに代替するのではなく、ヒト対ヒトのインタビューの人数を絞って、AIインタビューで回答数を担保するという使い方をしています。

篠田氏:AIインタビューで幅広く声を集めてから、特に深く話を聞きたい人にリアルのインタビューをするという組み合わせが増えています。定量と定性の中間ではなく、かなり定性に近い深さがある情報として手法が確立されてきている感覚ですね。

─ 実際に使ってみて、期待値と比べてどうでしたか?

藤井氏:期待を超えていた点でいうと、まずスピードです。前日に設計して配信すると、翌朝には最低でも10人分は集まっているイメージで、細かいセグメントでなければもっと集まることもあります。
従来の定性調査では、リクルーティングから調査、レポート作成までに2週間前後かかっていたところ、最短で2~3日で完了するスピード感になったので、「思ったよりスピーディーに集まるんだ」という感覚がありました。量が取れる分、多様なユーザーが集まるということも良かった点です。

一方で難しかった点としては、AIにシナリオを書いてもらう部分や深掘り質問の精度ですね。「(回答する際に)なぜその言葉を使ったのか」という細かい深掘りは、やはり人間の方が得意かなと思う部分があります。ただ、これも少しずつ精度が上がってきていると思います。

篠田氏:あと意外と気に入っているのが映像の部分です。インタビュー時に対象者の顔や背景・服装が見えることで、「この人はこういう生活感の人なんだ」という理解が深まります。定量データだけでは持てなかった「ユーザーへの憑依感」というか、具体的なイメージが持てるようになりました。

■ 「AIだから話せる」── コンテンツ調査で気づいた意外な本音

宣伝本部 ストラテジックプランニング局:藤井 春奈 氏

─ 従来の定性調査と比べて、コルクのAIインタビューならではの価値を感じた場面はありましたか?

藤井氏:AIが相手だからこそフラットに話してくれるという側面があります。恋愛リアリティショーのような、普段なら少し言いにくいセンシティブなテーマで特に効果を感じています。恋愛に関することなど、人に話すのが恥ずかしかったり言いにくいことも、AIが相手だと素直に話してくれる傾向があると思います。

篠田氏:対象者が「相手はAIだから」という意識で、かなりリラックスして受けてくれていることもあります。ヒト対ヒトのインタビューでは、場の雰囲気やインタビュアーへの気遣いが入ってきてしまうので、格好や場所を気にせず、本当に日常の雰囲気のまま参加してくれているというか。そういう自然な状態だからこそ本音が出てくるんだと思います。

南:それは、たしかにAIインタビューならではの特徴かもしれません。そのほかで、サプライズだったことや印象的なエピソードが、もしあればお聞かせください。

藤井氏:分析の質の高さと、設定されているプロンプトの精度には正直驚きました。あとは改善要望を出したあとの開発スピードの速さが予想以上でした。要望を出したら本当にすぐ形になって返ってくるので、大変ありがたいなと思っています。一緒に作っているような感覚があります。

南:弊社側もAIを駆使して、お客様からいただいた改善点やご要望を含めてスピード感のある開発を意識しているため、ぜひ今後もお気軽にご相談いただきたいです。

■ 「30分後にはデータが届く世界」へ。属人化を防ぎ、誰もがリサーチできる環境を創る

─ 今後、AIリサーチの取り組みにおいてどのような価値を提供していきたいとお考えですか?

篠田氏:今はまだコルクで「定性調査の工数・時間不足という課題を解決する手段を見つけた入り口」という段階なので、今後は定量×定性を一気通貫でデータをつなぎ合わせていきたいと考えています。私たちが持っているユーザーログなどの行動データと組み合わせることも全然できていないので、そのあたりを意識的に形にしていきたいと思っています。

もう少し先の話をすると、Claudeのデータを全部蓄積して、ある一定の調査を自動化できるようにしたいと考えています。そして最終的には、リサーチの経験がない人でも「この件について人の声を聞きたい」と思ったら30分後にはデータが取れているという世界線を作っていきたいです。属人化を防いで、誰でも調査が使える環境を広げることが目標です。

藤井氏:リサーチやインタビューって、経験やスキルがないとなかなか実施できない部分がありますよね。コルクを活用することで、過去に経験がない人にも取り組みやすい仕組みが作れるんじゃないかと思っています。「興味がある件について声を聞きたい」と思ったらすぐ動ける環境が、社内に広がるといいなと。

─ Quest Researchへの期待や、改善してほしい点があればお聞かせください。

篠田氏:要望を出したら素早く実装して返ってくるというサイクルを、今後も一緒に作り続けていけると理想的だと思っています。また、業界全体として「安くて速い」だけでなく、質の高さを担保する方向に向かっていってほしいですね。単価が高くてもリサーチの質が高ければ価値があると個人的には思っています。本当に知りたいことを持っている人に的確にリーチできれば、多少コストが上がっても意思決定に直結するデータの価値は十分あります。

藤井氏:UIの面では、もっと「人と話している感覚」になると、さらに取れる情報が広がると思います。今はAI感が強いので、音声の速度や話し方のトーンなど、より自然な会話に近づいていくといいなと感じています。

南:確かに例えば「キャラクターがインタビューしてくれる」というような体験ができたら面白いですよね。そういう遊びのある使い方ができると、対象者のエンゲージメントが上がって、より本音を引き出せるかもしれません。これは技術的にはおそらく可能な気がします。

篠田氏:あとは放送終了直後に見終わった人にすぐインタビューを取りたいというニーズもあります。視聴直後のリアルな反応を逃さず取れるような仕組みができると、すごく面白いと思っています。

南:そちらも技術的には可能かと思いますので、是非一緒にお取り組み出来ればと思います。

本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

エンタメ業界のマーケティング現場で求められるのは、スピードと深さを両立したインサイトです。今回のサイバーエージェント様の事例は、AIインタビューが単なる「リソース不足の解消ツール」にとどまらないことを示しています。

圧倒的なスピード感に加え、AIだからこそ引き出せるフラットな本音や、映像から得られるユーザーのリアルな人物像は、従来の手法では得られなかった新たな価値です。将来的に「30分後にはデータが届く世界」を見据える同社の挑戦は、エンタメ業界はもちろん、深い顧客理解を求めるすべての企業にとって、未来のリサーチのあり方を提示しています。